川満由希夫 vol.9  「本当に伝える」 




前里が受講者の方にこう言いました。

「豊かさ」を昨日初めて知った人がこの人です。


もちろん僕です。


実際にそれを知った直後のその人から話を聞くのが一番分かりやすい。

そのエネルギーも伝わりやすい。

そう言って前里は僕と席を交代しました。


これまでにない緊張感が自分の中にあります。

だけど、心地良い方が優先していました。


そして、キラキラ目を輝かせている受講者の方を前に、

昨夜の流れを少しずつ話し始めました。


昨夜、前里と何を話したのか、

そしてどういう流れでその瞬間を迎えたのか。

どれくらいの時間が経ったのかはあまり覚えていません。

そして実は、話の始まりの時点で、

「今日、僕は泣きます」

と宣言していた通り、

価値満タンを知って自分がどう思ったか、

それを伝えようとした瞬間にもうとまりませんでした。


「本当に本当に心から幸せだと思った」


この言葉をまともに言うことができませんでした。

受講者の方も泣いています。

僕も泣いています。

前里は笑っている。

もう何がなんだか分からないが、

とにかく伝えることは、

こんなに感動することなんだと思いました。


その後の流れ、その日に前里と話したこと、

すべて話しました。

その方はずっと泣いていました。

僕の涙がとまってもずっと泣いていました。

泣いてくれて嬉しいというわけではなく、

伝わった結果だとわかるから嬉しかったのです。


実は、伝えることの本当の意味を、

僕は事前に前里から聞いていました。


「今日、お前は初めての体験をすることになる」


そう言われていました。

それは、今までの僕がいかに固く、

自分の為に仕事をしていたのか、

自分を魅せる為に伝えていたのかということが分かる。

という意味でした。

実際、僕は人に話す時、人前で話す時は、

その内容や伝え方をフル回転で頭の中で組み立て、

間違えないように、綺麗に話せるように、

「知っている人かのように」

ということをしていたと思います。

そこに目の前の誰かを思う気持ちなど、

今思えばなかったに等しい。

それくらい「自分」を意識した状態で過ごしていたと思います。


前里がそこで言ったのは、

「自分が思うほど相手の反応がないと感じていたはず」


そうです。

僕はこれまで、一生懸命になればなるほど、

何も伝わっていない。

感動してくれない。

と感じていました。


そして、やっぱり自分は

前里と違って実力がないからなんだろうと片付けていた。

でもそれが違うんだということを教えてくれました。


綺麗な話し方や、飾った言葉、魅せる為の言葉など、

「この人の為にただ伝えたい」

というシンプルさには到底及ばないんだと。


もし話し方が下手で、支離滅裂であろうとも、

その気持ちから発信される思いは必ず届く。

だから準備を重ねて、練習を重ねて人前で話す必要はない。

本当にただ伝えたいという純粋さの中で、

そこに立てるかどうかの方が重要だ。


今のお前なら「本当に伝える」を実感できると。

だから、何も考えずに話せばいい。


そしてその言葉通り、

僕は本当に伝えること、

伝わることの素晴らしさを知ることになったのです。

相手の感情がダイレクトにこちらに入ってくる。

相手とまったく同じ状態になっていることがハッキリわかる.

相手が何を思っているのかが疑いなくわかるのです。

これまでとは全然違いました。

とにかく素晴らしかった。


私達は一つであるということは、

もしかしたらこういうことなのかもしれない。

そう感じながら僕の話は終わりました。

そして、受講者の方が最後に言ったこの言葉が印象的でした。


「心から人をうらやましいと思ったのは、今回が初めてでした」


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