川満由希夫 vol.13  「がむしゃら」 





セッションの後は前里と食事に行きました。

その場は楽しいという雰囲気からは

遥か遠い場所にありました。

会話もそこそこに、静かに食事を済ませ、

東京オフィスに戻ります。

そして、テーブルで向かい合わせに座りながら、

ゆっくり話が始まります。


「お前はスマート過ぎる」


それは、僕が昔から持っているテーマのようなものでした。

必死に何かに取り組んだり、

不器用に何かをやることを、

自分の生き方からはずしていました。

言い換えれば「できることしかやらない」となります。


「なぜもっとがむしゃらに学ぼうとしないのか」


初めはこの言葉の意味がわかるようでわからなかった。

なぜならこの数日間は

これまでにないほど学んでいるつもりだったからです。

実際にそれに間違いはありません。

しかし、前里が言っていることは、

そんなに複雑なことではありませんでした。


「なぜ聞かないのか」


今日の出来事をなぜもっと貪欲に、

もっとがむしゃらに知ろうとしないのか。


僕の中にはこんな思いがありました。

「セッション終了直後に前里を質問攻めにするのも申し訳ない」

「聞きたいことについてはメモを取ったから後で聞こう」


だけど、そんな思いは必要ないと前里は言います。

どんな状況であろうと、本気で学びたいなら聞けばいい

何も聞かずになんとなく終わってしまうことの方が、

どれだけ自分をがっかりさせることになるか。


結局、僕は自分のことしか考えていませんでした。

前里に配慮しているように見せながら、

今の自分の状態と対面することが怖かったのかもしれない。

それは、すぐ目の前にいる前里の為にもならない。

これから出会うであろうたくさんの人達の為にもならない。

誰も喜んではくれない。

そんなことも思いつかないまま、

自分を守っていたことになります。



そして僕は何かが吹っ切れました。


「なぜ一番最初のセッションの方とこんなに違うのか」

「なぜ今日はこんな風になってしまったのか」


前里はしっかり話してくれました。

最初のセッションの方と違うのは当たり前だ。


確かに明確な違いがありました。

最初の方の時は、初めに前里が話をしていました。

単純に場が出来上がった状態だったということ。

前里は、受講者の為に、

僕の話がなるべくスムーズに届くようにしていたのです。

ありのままを受け入れる状態こそが、

受講者の方への最高のプレゼントになるから。


そしてそれは僕の為でもありました。

「本当に伝える」

ということを知ってほしかった。

そして、お前にも喜んで欲しかった。


結局、僕は前里の大きな配慮の中に居たのです。


そしてもうひとつの質問の答えは、

また人の心の緻密さの中にありました。