川満由希夫 vol.12  「心のまやかし」 




あれから3日目。

特別顧問セッションがありました。

そこでも僕は、あの話をすることになっていました。

3人目の人になります。


でも、僕はすでに伝えることの喜びを忘れています。

「人の為」という重要なキーワードを忘れています。

でも実際は忘れているつもりはありませんでした。



そんな中で受講者の方が来ました。

何度もお会いしている方です。

僕は、僕の知ったことを、その状態を、

全部その方に伝えようと思っていました。

本気で喜んでもらいたいと思っていました。

でもダメでした。


また、話し始めた瞬間にわかりました。

ただただ伝えようと思うのに、

「何をどう組み立ててどこから話せば…」

頭が働き始めています。

でも僕は続けました。

”一生懸命頑張りました”

そして友達に話した時と同じように、

伝わっていないと思いました。

言葉数が多くなり、必死になり…


1時間話し続けました。

実際は自分ではよく分からなかったです。

そんなに時間が経っているとは思いませんでした。

そして話が終わり、なんとも言えない空気感が漂う中、

前里が冷静に話し始めました。


「今、何が起きていたのかを説明します」


これが難しさであり、人の心の仕組みなんだと。


まずは僕。

話に中身がない。

入り口と終わりを話しただけで、

中身が一切なかった。


「価値満タンを知った!」

「・・・」

「すごかった!」


ただそれだけだったと。

それに1時間もかけたのです。

結局は、なかなか伝わらないという不安が

言葉数を多くし、時間を費やしただけだったのです。

その前里の言葉に、僕は心底納得しました。

そして実は、前里はこうなることを知っていました。

受講者の方が来る直前に、

こういうやり取りがあったのです。


「また話してもらうけど大丈夫?」

大丈夫だと答えた僕に

「甘いんじゃない?」

と言いました。

心をほったらかしにしている僕への警告だったのでしょう。



話は戻ります。

前里はたんたんと話し続けました。

そして、僕はまた

人の心の巧みな動きを知ることになりました。


受講者の方の心の状態です。

「変わりたい」という思いで受講しているはずの

特別顧問プログラムの中で


「変わりたくない」


という真逆の状態だと言います。


どういうことか。

実は受講者の方は、

僕の話を聞いて感動してくれたんです。

涙も流しました。

少し興奮しながら、楽しそうにいろんな質問もしてくれました。

一見すれば、とても実りのある1時間だったように思えるかもしれません。

実際に受講者の方もそのつもりでいたはずです。


だけど、僕の話には”中身がなかった”のです。

そこが重要です。

受講者の方は中身のない話を聞いて感動したのです。

実際に前里が「今の話のポイントは?」

と聞いたとき、その方は答えられませんでした。


でもその方は、中身のない話を聞いて

「知ったつもり」

になって終わらせようとしたのです。

実際は心がそうさせたのです。

これ以上の情報は入れまいとする心が

”中身のない話”を入れたということです。

そして感動という勘違いまで引き起こし、

「これでよし!」と完結させようとしたのです。


結局は僕もその協力者でした。

そしてその方も僕の協力者だった。


あの日から遠ざかっていた僕の心は

”受講者の方が感動してくれた”

というまやかしを見ることによって

「やっぱりこれでいいんだ」

と完結させようとしていたのです。

うっすらと残る程度の違和感は、

前里の言葉がなければ消え去っていたでしょう。

そして僕は、とてもとても大切なことを

忘れたままになっていたでしょう。