研究生 東京レポート⑪ 

その日は、個人顧問のあとに
別科の講義がありました。

前日に講義でお会いした受講生の方を
オフィスの玄関まで迎えに行って、
その方の正面にミツさん、横に一真さん、
少し離れたところに僕が座って、カウンセリングは始まりました。



昨日の講義のこと、そのあとの忘年会、
そして先月の講義から今日までの一ヶ月間のこと。

受講生の方は淡々とした口調で語り始めます。



僕はその方の名前は知っていたのですが、
前日の講義で少し挨拶をしたくらいで面識がなく、
噂で聞いた「ひょうきんな人」、というくらいしか
その方についての人物像がありませんでした。

深く腰掛け、前回・今回の講義で学んだことをふまえて、
冷静に直近一ヶ月間の自分の洞察を話す受講生の方。


自分の思考の癖、弱点、課題としていたもので
出来た部分と出来なかった部分、など。

自分を客観視し、冷静な分析を加える受講生の方。


ミツさんは何も言わずに
云々と頷きながら聞き入っています。


僕はこの方と面識がなかったので、
もともと、こういうふうに自分を客観視し、
冷静に話をする側面をもっている方なんだろうな
と思いながら話を聞いていました。

そしてこの方が一連の流れを話し終えると、
それまでずっと静かに話しを聞いていたミツさんが、
「すごいね。すごいよ○○君」と、珍しく感情をあらわにして
嬉しそうにしています。

横で聞いていた一真さんもミツさんと同じような反応をして
その方を見ています。


あとで聞いた話によると、
この方はパワフルな側面がある一方で、感情の浮き沈みが激しく
現象にのまれる傾向があった、とのことでした。

もともと冷静に自分を客観視して、
淡々とその洞察を語る人ではなかったのです。


先月の講義からのこの一ヶ月間という短期間での変容ぶりに、
ミツさんも一真さんも驚きを隠せないという様子でした。



そして、
「ついに○○君もここまで来たか。嬉しいな、俺は嬉しいよ」
と、驚きながらも、安堵にも似たような表情を浮かべるミツさん。

普段はクールで、人をたてることはあっても、
あまりベタ褒めしないミツさんが手放しでその方を褒め称えています。


僕はその方のこれまでの状態やプロセスを知らないので、
その3人の異様な盛り上がりを側で見ているしかなかったのですが、
この方がこの状態に入ることを、
ミツさんが一つのターニングポイントとして位置づけていたのだなと、
その時感じました。

もともとパワフルに物事を推し進めていく側面をもっている方、
ということなので、この冷静さを入れることができるかどうか、
が鍵を握っていたのです。


一真さんは、普段、学園で生徒の成績を上げなければいけないという仕事柄、
人の弱点を見抜くことがとても上手な人です。

生徒の成績を上げる場合、その子の強い部分を引き出す前に
まず弱点を潰さなくてはいけないからです。


その洞察は非常に鋭く、短時間でそれをやります。

それだけに、人がなかなか弱点を克服できず、変われないという、
その難しさもよく理解しているが故に、
その方の変容ぶりを目の当たりにして驚きを隠しきれなかったのでしょう。



講義で深い意識レベルで情報を吸収していく。
そして一ヶ月間の実生活での実践。
情報を咀嚼し、目の前の現実世界に還元する。

その状態をつくりあげて、
また新たに講義で次の情報を受け取る。



この「慣性からズレる」ことに
「慣性」がはたらくルーティン・ワークが、
この方の変容・成長をスムーズに促したのだと思います。









前里光秀研究所  研究生 比嘉公彦